今日の一冊
内容(「BOOK」データベースより)
自然現象を見事に言い当てる不思議な力。君はいったい何者なんだ?『ラプラスの魔女』前日譚。
著者について
●東野 圭吾:1958年、大阪府生まれ。1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。1999年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第134回直木賞を受賞。12年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞、13年『夢幻花』で第26回柴田錬三郎賞、14年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。その他の著書に『殺人の門』『探偵倶楽部』『さまよう刃』『夜明けの街で』『人魚の眠る家』『危険なビーナス』『恋のゴンドラ』『マスカレード・ナイト』など多数。
あらすじとネタバレ
未読の「ラプラスの魔女」のスピンオフ作品でした。
これ単独でも十分楽しめましたが、多分ラプラスの魔女を読んでからの方がもっと楽しめたと思います。残念。
ナユタという名前の鍼灸師が主人公。
彼は医学部に入学後、鍼に魅了され大学を退学して鍼の師匠の元に弟子入りし、今では遠方にいる師匠の患者に師匠の代わりに鍼をうちにいっています。
そこで出会った人たちとの不思議な出来事をナユタと自然の力を読むことができる不思議な女性円華が解明していくという話。
(ラプラスの魔女ではこの円華がヒロイン)
連作短編集になっています。
第一章
主人公ナユタの治療を長年受けてきたスキージャンプの選手坂屋。
最近彼はずっと不調続きで引退の文字も見えてきた。
せめて最後にもう一度表彰台にのぼってから引退したいが、今期の調子はずっと良くない。
ある日、大学で彼のスキージャンプの解析結果をみせてもらっているとそこに偶然やってきた円華が、彼のジャンプ映像を少しみるだけで彼の弱点を、そしてその原因が隠している足の古傷にあることまで見抜く。
彼女に興味がわいたナユタは彼のジャンプ練習に円華を誘い、見学してもらうと、円華は「優勝は難しい」というものの「私のいうタイミングでとぶことができたらもしかしたら」といい・・・
ナユタと円華との出会いと円華のすごい能力の紹介の章
話の流れもすっきり読みやすかったです
第二章
ナユタの患者石黒は不思議なナックルボールを投げる投手。
教授と円華がこのボールの動きを撮影に来ているときに、キャッチャー三浦から、石黒のボールを受けることができるキャッチャー自分しかいなかったが、もう体がボロボロで今期での引退を考えいてること、そして後継者に山東というキャッチャーを推薦しているが、一度キャッチに失敗してから彼が石黒のボールをキャッチできなくなってしまったことについて相談を受けます。
後日その映像を分析すると、山東はボールをとりたいあまり捕球直前にわずかにミットが動いてしまうことがボールをキャッチできない理由だと分かり、円華は山東の前である作戦を考えます・・・
実際ナックルボールをキャッチできる円華はすごい。
でもそれを催眠術のせいにして・・・という円華の考えをさらに一歩ひねって見事に山東を立ち直らせる方法が短い短編集をちゃんとドラマとして成立させていてよかったです。
第三章
街で偶然高校時代の友人脇谷にあうナユタ。
ナユタは高校時代にある理由でほとんど学校にいってなかったが(次の章でその理由がわかる)脇谷と担任の石部先生とだけは心を通わせていたので脇谷と食事に行くことに。
そこで、脇谷から石部先生の子供が川でおぼれ現在植物状態で大学病院に入院していることをききお見舞いに行くことに。
その病院が円華の父で脳神経外科医である羽原全太郎氏の働く病院であることに気づいたナユタは円華に連絡を取ってみると、石部先生の息子は彼の担当患者だった。
しかも母親は毎日お見舞いにきているが、父親は全く姿を見せず新しい治療をするために両親の同意がいるため困っていることもわかります。
石部が病院に来れない理由。
それはあの川の事故にありました。
実は重度の発達障害があった息子が足をすべらせて川に転落した時に飛び込んで助けようとした妻を2次災害を防ぐために必死でひきとめた自分の判断が正しかったのかを石部先生はずっと悩んでいたのです。
しかしナユタはその話を聞くとそんなことに悩むのは時間の無駄と一蹴します。
そして石部を事件のあった川に呼び出し、目の前であの時に子供を助けるために川に飛び込んでいても流れにより子供を助けることができなかったことを証明し、現在あの状態から意識を取り戻させるには円華の父の手術が必要だからその手術の承諾をするためにも病院に行くことを説明。
(ここでその手術が場所によっては怪物をうみだすという危険性やラプラスの言葉が登場。ラプラスの魔女では第四章で出てくる映画監督の息子が羽原教授の手術を受けている。)
後日、子どもが劇的な回復をみせていることが語られています。
(実は脇谷は妻の胎内にいる子どもにダウン症の疑いがあり、障害のある子を持つ苦労などを石部先生に相談しようとしていたら、石部先生がそれどころではなかったという状態で そのことをナユタに相談した。そしてこの一連の流れをみて育てる決意が固まった様子も語られている)
短い中にすごい詰め込まれた作品
この作品だけでも長編書けそう。
第四章
ナユタの患者、朝比奈。
彼はピアニストですが最近パートナーだった勇が、ゲイであることを世間に発表した直後に山で崖から落ちたことをうけ気を落としてた。
自分が発表したことで相当な偏見を受け、そのせいで彼は自殺したのではないかと朝比奈は考えていた。
ナユタと円華が調べたことで、実は勇は朝比奈の新作のお手伝いをするために自然の音をとりに山にきていてその時にふいた風により落下していたということがわかる。
またそれと同時に、昔少しだけ俳優の仕事をしていたナユタが、男性への愛に目覚めるという映像をとったことで中学と高校に通えなくなったこと、その作品から逃げるために名前を変えてくらしていたこと
そして本当はその作品に嫌悪したのではなくその時に自分にもそういう傾向があることに気づき、その気づきから逃げていたことをこの事件で円華に指摘され、ナユタではなく本名で生きていく(ありのままの自分を受け入れる)ことを決める。
またこの撮影時にナユタの体をもてあそんだとされる映像プロデューサーが赤熊温泉の事故で亡くなったという情報が最後にはいってきてこの話がラプラスの魔女につながっている。
第五章
この魔女の胎動がラプラスの魔女の前日譚
赤熊温泉の中毒事故(これがラプラスの魔女の舞台)についての調査を依頼された青江教授と奥西は現場にむかいながら以前にも頼まれた同様の事件を思い出します
3年前の灰堀温泉
前調査で、有毒ガスが出るから対策するように伝えていたにもかかわらず温泉街で中毒により家族3人がなくなってしまった。
調査を依頼された青江と奥西は家族がなぜその場所に入っていたのかを調べることになり。
宿から北はガスが出て危ないと聞いていたにもかかわらずそこで亡くなっていた3人。
最初は無理心中なのかと思ったけど真相は・・・
あーこれは悲しい事故。
私もよく子供と家でだけど宝探しをして遊んだので、こうやって温泉街をマップをもたせて宝探しをさせたら絶対子供喜ぶだろうなって思っちゃうと思う。
宝物が埋まっているという目印がまさかガス発生場所の目印と同じだったなんて、お父さんの気持ちを考えるとやるせない気持ちになりました。
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